SSブログ

UPS(無停電電源装置)の選び方【計画停電】 [コンピュータ]

 東北太平洋沖地震(東北関東大震災・東日本大震災)による停電被害や、電力不足による関東地方の計画停電により、無停電電源装置(UPS : Uninterruptible Power Supply)が飛ぶように売れているそうです。しかし市場には様々なUPSが出回っており、製品選びには細心の注意が必要です。本記事では、UPSを選ぶ際、重要となるポイントや停電に関する基礎知識を紹介しようと思います。

※本記事ではUPSを100V交流商用電源に接続し、コンピュータ等の電化製品への電力供給を一時的にバックアップする装置と定義します

※記事中に"○次"という単語を用いていますが、1次側:電力会社から供給される電力(=家の壁にあるコンセント)、2次側:バックアップする電化製品(PC・ルータ・電話機等)を接続するコンセント と解釈してください

■ UPS ≠ 予備電源

 UPSは不慮の電力障害(サージ、ノイズ、瞬低、停電)によりコンピュータ等の電子機器や、そこで扱っているデータの破壊をふせぐために、正常な電力供給が回復するか、接続された電子機器が安全に停止するまでの時間、一時的に電力を供給する装置です。したがって、多くのUPSは電力を数分〜30分程度しか供給することができません。長時間の電力供給には、発電機を用います。(ただしブロードバンドルーターやONUと言った数Wクラスの小電力機器を数kWクラスの大容量UPSに接続すれば数時間電力を持たせることも出来ます)

 またUPSは発電機と違い、停電していない時でもUPS自体が電力を消費しています。用途上、24時間つけっぱなしにする製品ですから、製品を選ぶ上で重要なポイントといえます。



■ 運転方式

  • 常時商用給電方式(消費電力:数W〜10W程度):その名の通り、正常時は電力会社から供給される商用電源を2次側(電化製品をつなげるコンセント)に直結させ、異常時のみバッテリー運転に切り替えるタイプです。小規模UPSに多く採用されています。正常時に電力のロスや発熱が少ないのが特徴です。欠点として、商用給電・バッテリー給電切り替える際、10ms程度電力供給が止まってしまう問題がありますが、ほとんどの電化製品では極短時間の電圧低下を吸収する機構を持っているので問題ありません。(電圧降下に耐えられる時間をハングアップタイムと言います。まともなPC用電源ユニットだと10ms程度です。最近はやりの高性能ATX電源ユニットは数十ms、中国製のジャンク品は数msとグレードによって大きな差があります) 
  • ラインインタラクティブ方式・パワーマルチプロセッシング方式(消費電力:50W前後):基本構造は常時商用給電方式と同じですが、商用電力をそのまま渡す電線(バイパス回路という)に電圧補償回路という電圧を安定させる部品をはさんでいるため、小さな電圧変動を吸収してくれます。古い家で、掃除機などの突入電流が大きい電化製品をONにした瞬間、フワッと照明が暗くなる事がありませんか?あれを防いでくれるわけです。地震後、商用電力の質がわずかに低下している(電圧・周波数が乱れる)ため、今後威力を発揮するかも知れません。中規模のUPSに多く採用されています。
  • 常時インバータ給電方式(消費電力:数百W):常に商用電力 →→[交流]→→ 整流器 →→[直流]→→ インバータ →→[交流]→→ 電化製品 という一見無駄な事をしているタイプです。商用電力の不安定要素(ノイズ、サージ、電圧異常、周波数異常)を完全に吸収することができ、バッテリー給電への切り替えも極めて短時間 または 無瞬断でできるのが利点です。一方、電力の変換ロスが極めて大きいため、UPSを含めた消費電力が1割〜3割増加してしまうのが欠点です。データセンタや医療機器、電子部品工場など、わずかな電力障害すら認められない用途に用います。家庭用は存在しません。
 というわけで、家庭で買うなら 常時商用給電方式 か ラインインタラクティブ方式になるのですが、市場をみると常時商用給電方式は750VAクラスまでの製品しかないため、大容量UPSを求める人は自動的にラインインタラクティブ方式を選ぶことになります。ラインインタラクティブ方式のUPSは、750VAクラスが30W程度、1kVAクラスが60W程度の電力を常に食うので、十分に考慮して選んでください。

ポイント:運転方式は容量でだいたい決まる。ラインインタラクティブ方式はより安心だが消費電力が多いので注意


■ 電力供給量

 UPSの電力供給量はVA(ボルトアンペア) または W(ワット) で表記されます。VAは皮相電力といい、UPSにかかる最終的な負荷を表します。Wは実効電力といい、UPSが2次側に供給できる電力量を表します。たとえば、300VA/250W というUPSがあったとすると、UPSが実際に供給できる電力は250Wとなります。皮相電力との差分:50Wは変換ロスで熱になります。つまり、VAとWの差が少ないUPSは変換効率が高い良いUPSと言えます。

 一方、電化製品ではW表記しかない場合がほとんどですが、実際にUPSにかかる負荷は皮相電力(VA)で表されますので、VAを調べる必要があります。VA表記がない場合は、ワットチェッカーなどの測定器を使うか、W値から概算してやるしかありません。計算は、 皮相電力[VA] = 実効電力[W] ÷ 力率 という式を用います。

 力率とは例えるなら食事のお行儀の良さを表します。とある電化製品は100Wを食べると満腹になるとします。力率1の電化製品は電力をすべてきれいに食べるために100W分の食事をするのに100VAの食べ物を用意すれば良いのですが、力率0.7の電化製品は行儀が悪く、出された食事をむさぼり、3割を周りに飛び散らかします。結果、満腹になるには 100W ÷ 0.7 = 140W分の料理を出さないといけないのです。(余談ですが、この飛び散らした料理は他の電化製品にもノイズとして飛んでくるので迷惑極まりないです)

で、実際の力率ですが
  • 最新の高級PC、高効率(エコ)電源ユニット搭載のPC:0.9〜0.99
  • 昔のPC、粗悪な電源ユニット搭載のPC:0.6
  • トランス型ACアダプター(重くてデカいアダプタ):1.0
  • スイッチング型ACアダプター(携帯電話やiPod充電器など軽く小さいアダプタ):0.6
  • 冷蔵庫:0.7
  • エアコン:0.9
といったところです。PC用電源ユニットはPFC回路という力率を改善する回路が入っているかいないかで大きく異なります。最近はやっている 80PLUS認証電源はほぼPFC回路付きと言えるでしょう。

 さて、あなたは消費電力200WのパソコンのためにUPSを買うことにしました。少し余裕をみて 300VA タイプのUPSを選びました。実際に使ってみると、UPSから負荷超過警報のブザーがビービー鳴るではありませんか!!よくよくしらべてみると、UPSの供給可能電力は250Wで、さらにPCの皮相電力は力率0.7で約280VAです。というわけで、UPSの限界を30W超えてしまっているので、せっかく買ったUPSがオーバーロードで使えず、より容量の大きなUPSを買い直した…。こんな失敗談をよく耳にしますので、容量選びは慎重に行いましょう。また電力容量に余裕があればあるほど、バックアップ時間がのびますので、大容量のものを買っても無駄にはなりません。

ポイント:UPSの実効供給電力[W] > 消費電力[W] ÷ 0.6 となるように余裕をもって選ぶ


■ 出力波形

SineWave.png

 これが最も大きな落とし穴です。私たちの家庭でコンセントに供給されている電源は100V交流です。これは上図のように電圧が +100V 〜 -100V を滑らかかつ連続的に行ったり来たりしています。この行ったり来たりのテンポが東日本(50Hz)・西日本(60Hz)で異なるために、関西の電力を関東に持ってこられないのです。

 ちなみにこの波の形を“正弦波(せいげんは)”・“サイン波”と呼びます。ちょっと学術的に言うと、円周上を一定速度で回る点を2次元に投影すると正弦波になります。つまり水力・火力・原子力・風力発電で使われているプロペラ(タービン)を回すと正弦波の交流電力が得られるってカラクリです。

 一方、バッテリー(電池)から得られる直流電力を交流にするにはインバータと呼ばれる回路が必要です。さらにきれいな正弦波を作るには複雑な回路が必要で、コストもかかります。そこで、市場には疑似正弦波タイプと呼ばれる“まがいもの”電力を出力するUPSが出回っています。

StepWave.png

 最も簡素なタイプでは上図のように +100V、0V、-100V をカチカチ切り替えて、交流っぽい波形を出しているタイプです。お世辞にもとても正弦波とは言い難いですね。車のシガーソケットにつなげるインバータの多くがこの疑似正弦波です。疑似正弦波は“矩形波”・“ステップ波”とも呼ばれます。こんな波形では、モーターが滑らかに回らないので、冷蔵庫・洗濯機・エアコン・掃除機といった多くの電化製品が動きません

spectrum-sine.png spectrum-step.png

 次に矩形波の電気的特性を見ていきます。これが正弦波と矩形波の信号成分です。正弦波は 50Hz or 60Hz の成分のみを持っていますが、矩形波はあらゆる周波数帯の信号を持っています(詳しく言うと無限の奇数倍音)。しかもその強度は図をみれば分かるとおり主信号(50Hz/60Hz)に比べて極めて大きいものです。言い換えると、疑似正弦波は膨大なノイズを持ったとてつもなく汚い正弦波と言えます。

 これだけ汚い電力を使うと、様々な電子機器が誤動作を起こしたり、電源回路に大きな負荷をかけてしまいます。特に問題のなのが、近年急増しているPFC回路を搭載したPCです。PFC回路を持った電源ユニットに矩形波の電力を流すと、回路の特性で瞬間的に莫大なサージ電流が流れます。その大電流でUPSやPCのパーツが破壊され、大切なデータや設備を失うばかりか、最悪火災に至ります。多くのメーカーでは矩形波タイプのUPSを使わないよう呼びかけていますし、矩形波電源を用いたことによる故障はメーカー保証外と公言しています。

 矩形波タイプのUPSは比較的安価で販売されているので、多く出回っていますが「PCがジージー音をたてて落ちた」「PCから煙がでた」といったトラブルが後を絶ちません。また、目に見えた被害がなくても、電源ユニットには極めて大きな負荷がかかるため、可能な限り正弦波タイプのUPSを選びたいところです。個人的に、万が一(1/10,000)に備えて買うべき安全グッズが、1/100の確率で危険をもたらすってのは正直バカげてると思います。それならない方がましです。

 しかしながら、ACアダプターなど一部の電化製品は疑似正弦波でも正常に動作します。電話機、ブロードバンドルーター、ONU、ADSLモデムなどをバックアップする場合は矩形波タイプでもかまいませんが、メーカーの保証は一切ありませんのでご注意ください。

ポイント:矩形波タイプのUPSは安いけど、PCが燃えても知らないよ

■ 冷却ファンの有無・動作条件

 一部のUPSでは内部を冷却するためにファンが内蔵されています。1kVA以上の大容量UPSや、常時インバーター方式のUPSはほぼ間違いなく付いています。これらの製品は業務用であり、本来であれば騒音など気にしないサーバールームなどに設置されることを前提にして設計されているため、その音が非常に大きく耳障りな場合が多いです。

 製品を選ぶときはファンの有無や、ファンが動作するときの条件(バッテリ充電中やバッテリ運転中のみ動作するタイプや、常時動作するタイプなどがあります)を確認しましょう。また、数時間もたせたいからといって単純にバカでかいUPSを選ぶという浅はかな考えを見直すことも大切です。


■ おすすめのUPS

ユタカ電機製作所 常時商用方式UPSmini500II バッテリ期待寿命7年/筐体ブラックモデル YEUP-051MAB疑似正弦波出力タイプ。非常にコンパクトながら300Wの供給能力を持つ。日本の電話交換機等で培われた技術が使われており、7年という超長寿命のバッテリーが大きな特徴。ONU・ADSLモデム・ブロードバンドルーター・電話機などの通信インフラをバックアップするのに最適!本体消費電力13W、ファンレス

オムロン 無停電電源装置(常時商用給電/正弦波出力) 350VA/210W BY35S

オムロン 無停電電源装置(常時商用給電/正弦波出力) 350VA/210W BY35S

  • メーカー: オムロン
  • 最もリーズナブルな正弦波出力のUPS。1.4万円という安さに加え、寿命5年の長寿命バッテリーを搭載し、ランニングコストを安く抑えることができる。本体消費電力が20Wとそこそこ低いことも魅力。容量が大きい上位機種(BY50S:1.8万円)もあり。定期的にバッテリーのチェックを行い、寿命を知らせる機能がついており安心。ファンレス。
オムロン 無停電電源装置(常時商用給電/正弦波出力) AC100V:750VA/450W BY75SW

オムロン 無停電電源装置(常時商用給電/正弦波出力) AC100V:750VA/450W BY75SW

  • メーカー: オムロン
  • 常時商用給電方式 かつ 正弦波出力 で最も容量が大きいUPS。本体消費電力が12Wと飛び抜けて小さい。よほどのゲーヲタPCでない限り、容量が不足することはないでしょう。ファンレス。
オムロン 無停電電源装置(ラインインタラクティブ) 750VA/680W:縦置 BN75S

オムロン 無停電電源装置(ラインインタラクティブ) 750VA/680W:縦置 BN75S

  • メーカー: オムロン
  • ラインインタラクティブ方式の正弦波出力UPS。変換効率90%という極めて高性能なインバータを搭載しているため、より多くの電化製品を接続できる。本体消費電力は30W。ファン有り(充電中・バッテリ給電中のみ動作)
 他にも大手メーカーとして APC社 のUPSが有名ですが、どうもここのUPSはバッテリの制御が甘いようで、過充電してバッテリの寿命を縮めてしまったり、自己診断機能がザルで肝心なときに動かない、動かしたら煙をふいた などのトラブルがよく発生するので、個人的にあまりおすすめできません。まあ海外メーカーはみんなそんな感じですけど。
nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:パソコン・インターネット

nice! 1

コメント 2

hoge

日本での交流電圧波形は±141V程度ではないでしょうか
?100Vは実効値ですよね。
by hoge (2017-06-05 00:41) 

toorigakari

書こうと思ったらコメ1さんが書いてた
by toorigakari (2017-10-21 16:40) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。