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EIZO EasyPIX はハードウェアキャリブレーション対応か [カラーマネージメント]

EIZO EasyPIX
 先日の ColorEdge CX240 のレビュー記事内で、EIZO販売員の「うちのディスプレイは全部ハードウェアキャリブレーション対応」という発言に対し「嘘です」と突っ込んだところ、「EIZO EasyPIXはハードウェアキャリブレーション対応だ」というツッコミ返しを受けた。当然ながらハードウェアキャリブレーションできるか否かはディスプレイ本体の仕様に依存するため、非対応ディスプレイにどんなカラーセンサやソフトを導入したとことで、対応できるはずがない。従来のパソコンに Windows 8 をインストールしてもタッチ対応にならないというアレと同じ話だ。

 ソフトウェアキャリブレーション と ハードウェアキャリブレーション の違いは初心者によく間違われるので、今回もそれだと思いきや、話を進め調べていくうちに怪しいニオイを感じたので、本記事でまとめたいと思う。

現状把握

1. あいまいな説明
 まずEIZO公式のドキュメントが非常に不明瞭なこと。カラマネ小話 どこが違う?ColorEdgeとFlexScan では何度も "EIZO EasyPIXを使用する場合を除く" という注釈が記されているが、「じゃあ EIZO EasyPIX を使用するとどうなるのよ?」という事は一切書かれていない。ソフトウェアキャリブレーションを行うこと、それのデメリットを否定していることから転じて、EasyPIX = ハードウェアキャリブレーション? という誤解に至ったユーザが少なくないようだ。

2. 支離滅裂なEIZOスタッフの説明
 上記の説明があまりに不明瞭なためEIZOのサポートセンタに問い合わせたところ「EasyPIX を使えば FlexScan でもハードウェアキャリブレーションが可能です」と断言された。おいおい。いくつか続けて質問したが、どれも斜め上の回答をされてごまかされてしまった。ここでEIZOは EasyPIX を使えば同社のすべてのディスプレイをハードウェアキャリブレーションできるとユーザに誤認させたいのだと確信した。最後にいささか誘導尋問のようだが「再度確認しますが EIZO EasyPIX を使えば輝度・色温度・ガンマをハードウェアキャリブレーションできるんですね?」と質問したところ、「いや、ColorEdgeシリーズ・RadiForceシリーズに限定されております」と回答された。まとめると「EasyPIX はハードウェアキャリブレーションできるがハードウェアキャリブレーションはできない」ということらしい。なるほど、意味不明。

3. 広告記事に散りばめられたミスリード
 IT系ニュースサイト ITmedia には EIZO Channel というコーナーがある。これは各記事に小さく "PR" と書かれているから分かるように、EIZO が ITmedia にお金を払って宣伝記事をかかせているコーナーである。(詳しくは Wikipedia 記事広告 を参照 ) ここで EasyPIX がさもハードウェアキャリブレーション対応かのように宣伝されているのだ。

"EIZO EasyPIXはあまり大きな声でアピールしていないが、れっきとした「ハードウェア」キャリブレーションツールだ。"

"EasyPIXも原理的にはハードウェアキャリブレーションなので階調性が崩れることはない。"

"EIZO EasyPIXは低価格で簡単操作ながら、ハードウェアキャリブレーションを実現しているのは見逃せない。"

"なんとディスプレイとセット購入ならプラス5000円でEIZO EasyPIXが手に入るのだ(EIZO EasyPIXの標準価格は1万9800円)。これはハードウェアキャリブレーションツールの価格破壊といえるほど安い。"

"FS2332は、ナナオのカラーマッチング/ハードウェアキャリブレーションツール「EIZO EasyPIX」にも対応しており"

4. でも公式ページでは一切言わない
 EIZOの販売員も、宣伝記事も EIZO EasyPIX はハードウェアキャリブレーションを実現するソリューションだと断言している。しかし EasyPIX の製品ページにはハードウェアキャリブレーションに関する記述は一切ない。



EIZO EasyPIX の実態

 では、EIZO EasyPIX とは何をするソリューションなのか? ハードウェアキャリブレーション・ソフトウェアキャリブレーション との比較すれば一目瞭然だ。

 ハードウェアキャリブレーションソフトウェアキャリブレーションEIZO EasyPIX
輝度の校正ディスプレイ本体の設定値を自動高精度設定
(数千〜万階調程度) 
ディスプレイ本体の設定値を手動設定(数百段階) 
かつ PC側LUTにて微調整
ディスプレイ本体の設定値を自動設定
(数百段階?) 微調整はしない
色温度の校正ディスプレイ本体の設定値を自動高精度設定
(数千〜万段階) 
ディスプレイ本体の設定値を手動設定(数百段階) 
かつ PC側LUTにて微調整
ディスプレイ本体の設定値を自動設定
(数百段階?) 微調整はしない
ガンマの校正ディスプレイ本体のLUTを書き換え
(数十億〜兆段階) 
PC側LUTにて調整
(1670万段階)
全く校正しない

 つまり EasyPIX はユーザがディスプレイの設定をOSDでポチポチ手動設定するところを自動でやってくれるいわば「自動設定ツール」というわけだ。最も重要なガンマカーブの補正は放棄しており、黒つぶれ白つぶれは全く直らない。これではハードウェア・ソフトウェアに関係なく「キャリブレーションツール」とは言えない。

 これをナナオは「PC側のLUTによる補正(ソフトウェアキャリブレーション)をしてないのだから、ハードウェアキャリブレーションだ!」と主張しているのだ。もう開いた口がふさがらない。たしかにEasyPIX は輝度と色温度についてハードウェアの設定値を校正(キャリブレーション)している。だがこれを一般的に言われている「キャリブレーション」と見なせるはずがない。

例えてみよう。

あなたは先輩技師に三次元スキャナのステッピングモーターを校正しておくように命じられました。三次元ですから当然X軸・Y軸・Z軸のモーターをそれぞれ調整しなくてはいけません。あなたはX軸・Y軸の調整をしたとこで作業に飽きたため、校正完了としました。次の日、先輩技師がチェックしたところズレが直っておらずあなたは怒られました。あなたは「私はたしかにX軸・Y軸を"キャリブレーション"しました」と反論しました。すると先輩技師は「X・Y・Z軸すべてをキャリブレーションしないと意味がないだろ!」と言い返しました。

さてどちらが正しいだろうか?私は先輩技師だと考える。ディスプレイのキャリブレーションは、輝度・色温度・ガンマカーブのすべてを調整して初めて意味を成す。そんな極めて重要な行程を行っていない EasyPIX はキャリブレーションツールとは言えない。

また、ナナオは EasyPIX が "PC側LUTによる調整を行わない" からハードウェアキャリブレーション対応ツールであると主張しているが、これも例えてみよう。

  1. i1Display2 + Eye-One Match でディスプレイをソフトウェアキャリブレーションする
  2. 作成された ICCプロファイルを削除する
  3. LUT (ICCプロファイルに埋め込まれている) がなくなったため、ソフトウェアキャリブレーションではなくなった
  4. i1Display2 はハードウェアキャリブレーターにランクアップした!! 
この主張は正しいだろうか?もちろんまかり通るはずがない。「 x - x = y 」という成り立たない意味不明な事を言っているからだ。x - x の答えはゼロである。



EIZOの手口

 EIZO Channel 記事の「EIZO EasyPIXはあまり大きな声でアピールしていないが、れっきとした「ハードウェア」キャリブレーションツールだ。」という言葉がすべてを物語っていると思う。これまで述べたように EasyPIX は普通のディスプレイでもハードウェアキャリブレーションが行える魔法のツールではないし、ましてはキャリブレーターと言えるかすら怪しい代物だ。当然、こんなものを「ハードウェアキャリブレーション対応」と公式に大きな声でアピールできるはずもない。だから公式サイトには一切そのことを書いていない。そのかわり広告記事で大々的にアピールする。クレームが来ても記事の文責は ITmedia にあるためEIZOが直接お咎めを受けることはない。店頭でナナオEIZO販売員が客に直接口頭で説明してしまえば証拠は残らない。そして記事や店頭で勘違いしたユーザがブログや掲示板でそれを広める。

 ヨドバシAkiba で例の説明を受けたとき、ただの勉強不足だと思っていたが、EIZOが隙あらば客をだまそうとする企業であるとことをすっかり忘れていた。



EIZO EasyPIX は優れたカラーマッチングソリューション

 誇大広告を抜きにしても、EasyPIX は良いツールだと思う。デジカメのRAWデジタル現像など、コンシューマーにおいてもコンピュータに求める色の精度が高まってきた。特にプリントアウト等を行うユーザにとってカラーマネージメントは必須の概念になる。しかしすべてのユーザが、120cd/m2・5000K・γ2.2 にきっかりに合わせる必要はない。環境光やプリンタと色が合っていれば良いのだ。「EIZO純正のカラーマッチングツール」と自称するように、EasyPIX はまさにカラーマッチングを安価かつ手軽に実現する最適なソリューションである。こんな姑息な手段と取らずとも、FlexScan と EasyPIX は魅力的なシステムである。

EIZOにはいますぐ誇大広告を中止し、製品の真の魅力をアピールしてもらたい。

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コメント 3

お名前

EasyPIXは、ガンマについて工場でハードウェア・キャリブレーション済の自社製モニターでしか使えない。
しょぼいセンサーで校正して、工場での校正を一層正確にできるのか疑わしい。
むしろ精度が落ちる恐れがある。
よって、それらのモニタについては、基本的にはガンマを校正する必要がない。

と、反論済みなのだが。

なお、EV2336Wは、グリーンの階調がおかしいそうだ。
だから、EV2336Wについてはガンマを校正する意味がありそうなのだが、EV2336WはEasyPIX非対応。
今後、EasyPIX対応機で同様の事例があれば、その機種についてはミヤハン氏の非難が一応当てはまると言える。
しかし、その場合、EasyPIXでガンマの校正ができるようにするより、工場の品質管理を見直せというのが本道だろう。
by お名前 (2012-11-29 20:18) 

B

※1
反論になってないよ。その理屈でいえばガンマを較正する必要がないのはあくまでもEasyPIXのセンサーの精度が疑わしいからで、ディスプレイのガンマが狂っていたとしても直さないのであればキャリブレーションしたとはいえないじゃん。どこまでの精度を求めるのか≒精度の信頼性の話とキャリブレーションしたしないの話をごっちゃにしてミスリードを誘ってるんですか。

まあPC側LUTをいぢってるわけじゃないから、EasyPIXについてはセミハードウェアキャリブレーション、て名づければよかったんじゃないのかな。ガンマはいぢれません、て明記して。
by B (2012-12-16 03:13) 

お名前

EasyPIXでガンマを校正する必要がないのは、
「EasyPIXのセンサーの精度が疑わしいから」だけじゃない。
「工場でEasyPIXのセンサーの精度よりずっと高精度なセンサーでガンマを校正済みだから。」
及び、「ガンマ特性がほとんど経年変化しないから。」

あと、以下再掲。
「モニタのキャリブレーションに必須の項目が何なのか、きちんとした定めがあるわけでもない。
だから、『ガンマカーブのキャリブレーションに意味を見出すか否か』によって、ガンマカーブのキャリブレーションがモニタのキャリブレーションに必須の項目なのかを論じた。
で、ミヤハン氏は重要な意味があり必須だと論じ、こちらは大して意味がないから必須ではなく、輝度と白色点を目標値どおりにするだけでもキャリブレーションと呼べ、ナナオスタッフの説明を嘘とは言えないと反論した。 」
by お名前 (2012-12-25 02:06) 

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